[りんね・雪花硝子]       株式会社 イッコウ リ・グラス アート 板 橋 一 広

英米文学作品の中に「アラバスターのような肌」という表現が良く見られる。
神秘的で美しい女性への最大の讃辞で、たとえばシェークスピア劇の「オセロー」に登場する
オセローの妻デスデモーナも「アラバスターのような肌」をしていると記されている。
白く透き通り、なめらかなアラバスターは完璧な美や富を形容する言葉として広く用いられて
いるようだ。 

Alabaster・・・耳にする言葉であるが、実際にその素材を手にとって見たり
ましてや光をかざしたことのある人は以外に少ない。

日本名で雪花石膏と訳されるアラバスターは、実際は石膏ではなく硫酸カルシウム2水和物の
粗粒の結晶が集合して半透明となった鐘乳石(しょうにゅうせき)の一種で、中国の
玉、翡翠のように、艶やかで優しい光を通す石として古代ファラオの時代から珍重されてきた。
鉱物でありながらガラスのような透明感を持つ、まさに長い年月をかけて地球が作り上げた、
美しい素材である。

人類が初めて作った化合物とも言われるガラスは、近代の技術革新に支配される所が大きく、
その進歩は「より大きく、より強く、より透明に」という、言い換えれば存在感を希薄にする
方向への進歩であったといえるだろう。人類が紀元前からその製法を伝承し、アールヌーボー期
に代表されるプリミティブで風合いを持ったガラスは、残念ながら「工芸ガラス」として建築や
インテリア、人間を包み込む空間を構成する素材とは別に区分されるようになってしまった。

一般的にガラスと言えば窓に使われる建材、フロートガラスをまず想い浮かべるであろう。
クールで洗練され、無機的なイメージを表現するかっこうな素材として多用される訳だが、存在を
希薄にする方向とは別に、新たな建材としてのガラス表現が可能であると考えている。

それは上述したアラバスターのように光を通し大理石のような自然な風合いを持つ新しい
ガラス素材である。透明度や光沢を調整する事で、石ともガラスともつかない独自な質感を
表現する事ができ、建築、インテリア、プロダクトの領域で素材展開の可能性の大きさを
示している。

今回、大賞を受賞した「りんね・雪花硝子」という作品はリサイクルによるこの新たなガラス素材
を多くの人に見て頂きたいとの思いから発表したものである。本来は非結晶であるガラスを、
界面結晶化という技術により独自な質感と透過性を兼ね備えた素材に焼成、デザインは素材表現に
徹する為、光る立方体と円形のテーブル面を組み合わせるシンプルな形状とした。結果として形態
と光をより強く表現できたように感じている。

上述のアラバスターの日本名「雪花石膏」にちなみ「雪花硝子」と命名、浮き上がったテーブル面
の下に、作品の材料であるカレット(捨てられる運命にあるガラス屑)を配し、素材の転生
「りんね」を表現するものとした。

ガラスは光熱費等の製造コストが安価な原材料を上回る為、リサイクルが思うように進まず、
年間数百万トンものガラスが砕かれ投棄、埋め立て処分されているのが実状である。地球レベル
での深刻な環境問題に向き合う今日、1400度もの高熱で大量のエネルギーを与えられたガラスが
捨てられ土中深く死んでゆく事に疑問を感じる人は少なくないであろう。「雪花硝子」は素材も、
込められたエネルギーも利用、約1000度で10分程度の小さな熱源で作る事ができる。

当初は手作りで作られていたが、連続焼成炉での量産に成功、現在は安定供給が可能となった。
ガラスとして生まれ、ひとつ役目を果たしたガラスが次のステージでさらに綺麗な姿で「りんね」
し、人々の目を楽しませる、そんな素材である事を今回の受賞を機に確信すると同時に、今後
多くの人々により素材の持ち味が引き出され、広く展開される事を願ってやまない。